2017/04/24

ポートレート(2)



 ところで先日『パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>』を見て、とすんなり書き始めたいのだけれど、やっぱりこのタイトルは引っかかる。原題は« Robert Doisneau, le révolté du merveilleux »で、これをそのまま訳すならたぶん『ロベール・ドアノー、驚くべき反逆者』ですけれど、そうすると写真家ロベール・ドアノーを知らないまま映画館に来た人が、ドアノーさんが脱獄したり銃撃したりする映画だと勘違いするのかもね。
 なんといっても驚きだったのは、あの『パリ市庁舎前のキス』は実際に恋人関係にある俳優たちを雇って演出されたものだったこと。当時(1950年代初頭)のパリでは人前でキスなんてしなかったんですってね。もともとは、アメリカの、雑誌か新聞か、ちょっと忘れましたけれど、から、「パリの愛」をテーマに依頼された組写真で、発表された頃はこれといって話題にならなかったそうです。それが今や広告的に使われまくっていつのまにやら「これぞパリのエスプリ」みたいなことになっているらしい。思えばこのタイトルの「パリが愛した」「永遠の3秒(なぜ3秒?)」も大分そういうイメージに引っ張られている。すっかり”物の見方”を身につけさせられているというわけです。一葉の写真が時間をかけて世界中に伝播していって、私たちの脳内と、現実の街角に、こういった光景を出現させている、という現実がすごい。
 写真が芸術化する時代、写真と切り離せない広告の世界が巨大化していく時代を生きたドアノーさんの写真が、なにか大きなもの、社会にも高尚にも商業にもよらず、朝から晩まで歩き回った町中で/子供部屋と隣り合うアトリエで、生まれていたことを想像するのは、その結果として残っている写真のよさ・面白さとはまた別に、面白い。
 あとドアノーさんの声がイッセー尾形さんみたいで、なんともよかったなあ。


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